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翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

ニッキ・ジョヴァンニ

  ニッキ・ジョヴァンニ、というアメリカの黒人女流詩人がいます。

Black Feeling Black Talk

 

  拙訳『ハーレムの闘う本屋』の中に登場するのですが、読者の方が、Amazonの書評に、「このニッキ・ジョヴァンニと主人公ルイスのやりとりが、最高に可愛い」と書いてくださいました。彼女が処女詩集(上掲、"Black Feeling Black Talk")を出した時のエピソードのことです。以下に、その場面を抜粋してみます。

 

「ジョヴァンニ、じつはな……」
「どうしたんです?」
「きみの本が盗まれた」
「ええっ!」悪い知らせだと思い、わたしは声をあげた。
 ところが、ルイスはこう言った。「やったじゃないか! きみの本を読みたいと思う人がいるってことだからな!」
 わたしは笑いだした。
 ルイスが喜んでいるんだから、もしかしたら、わたしは物書きとして生きていけるかもしれない。

   『ハーレムの闘う本屋』(p.125より)

 

 この時、ジョヴァンニは25歳。詩人と書店主のやりとりとして、こんな素敵なやりとりがあるでしょうか?

 じつは、わたしは彼女の詩を読んでいないし、もちろん評価もできません。でも、このやりとりを記憶していたジョヴァンニの気持ちは、とても純粋なものだと思うのです。

 

 ジョヴァンニとルイス・ミショーのからみは、もう一箇所あります。今度は、作家として認められたジョヴァンニが、閉店間際、ルイスに呼び止められ、奥の部屋でガーナ大統領エンクルマから贈られたコーヒーを飲んでいかないか、と誘われるシーンです。

……「ジョヴァンニ、コーヒーを1杯飲んでいかないか?」……

 そして、今、わたしはナショナル・メモリアル・アフリカン・ブックストアの奥の部屋で椅子に腰かけ、ルイスと話をしながら、彼のいれてくれたコーヒーを少しずつ口にふくみ、至福のひと時を少しでも長く味わおうとしている。
 そう、ついに、この日が来た。

   『ハーレムの闘う本屋』(p.128より)

 「そう、ついに、この日が来た。」の一行がぐっと来ます。この一行には、ある人に認められることが名誉であると思える、そんな人が身近にいること、そして、実際に認められたことの幸福が、凝縮されています。

 

 

 ニッキ・ジョヴァンニの若い頃のイメージは、写真からもわかるように、なかなか魅力的な、でも、どこかやんちゃな感じのする女性です。飛び級で大学に入った聡明さや、学生非暴力委員会で活動した履歴からは、彼女の知的な行動力がうかがえます。

 1943年生まれのジョヴァンニは現在72歳。大学教授でもあり、また、各種の講演活動もしていて、YouTubeにはたくさん映像があります。現在のジョヴァンニは、上の処女詩集の写真に比べると、だいぶふっくらとして、髪は短く刈りあげていますが、ちょっとハスキーな声で、ジョークを交えてテンポよく話す、小柄なのにパワフルな、一見、大阪のオバちゃん的な話っぷりが印象的です。

 最近は、こうして実在の人物であれば、その肉声を確かめて、翻訳の時の助けにすることができます。ニッキ・ジョヴァンニの場合、わたしは、なんとなく綾戸智絵さんを思い浮かべて訳してました。

 

 それにしても、冒頭、ジョヴァンニの紹介に、詩人の前に「黒人女流」とつけなければならないところに、人種問題や性差別の根深さがあります。『ハーレムの闘う本屋』の訳注に入れた人物紹介も、黒人の人物には、いちいち「黒人」と断わり書きを入れながら、よっぽど、ケネディやローズヴェルトの紹介文にも「白人」と入れてやろうかと思いました。うーん、でも、そうもいかず……。

 

 

 ジョヴァンニがテキストを書いた絵本が、日本でも翻訳出版されています。

ローザ

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リンカーンとダグラス

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(M.H.)