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翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

出版翻訳の契約

 先月、38冊めの訳書が出ましたが、これまでに、つごう10社の出版社さんとお付き合いしてきたことになります。

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『翻訳という仕事』小鷹信光著、ジャパン・タイムズ、表紙より。これは我が家にある1991年の初版本。何度も読みました。とくに印税に対する考え方は、始めのうちは、ほぼこの本だけを頼りにしていたと言っても言い過ぎではありません。小鷹さん、お世話になりました……。

 というわけで、そのあたりの話を自分なりに一度まとめてみましたので、参考になれば、と思います。

 

 今まであちこちで、出版翻訳を仕事にしようとしている人や、すでに仕事にしている人から、印税や支払い条件、契約書のことなどを尋ねられています。ご存知のように、現在の出版状況では、初版の刷り部数が少なく、出版点数が多い反動で絶版になる本も多くて、印税だけで食べていくには、翻訳の実力に加えて、相当のスピードと、仕事を確保し続ける営業力や人望が必要で、なかなか難しいことです。だからこそ、どれほどの経済的見返りがあるかを知り、自分の時間をどれくらいこの仕事に割けるのかを判断・決断する必要があるでしょう。

  なのに、具体的な条件をあらかじめ知ることができず、翻訳者同士で印税相場の情報をやりとりする機会も多くありません。そもそも、お金の話は二の次だという空気がどこかにあるような気もします。なので今回は、自分の経験から具体的に数字を挙げてみますので、参考にしていただければと思います。

 まず、今まで、このブログでとりあげてきた印税・契約関係の記事を以下に挙げておきます。重なる部分も多いですが、参照してみてください。

 上記の記事をふまえて、以下に、わたしの個人的経験をまとめて、印税率、刷り部数、契約書の有無、支払い条件を記します。ただし、これはあくまでわたしの経験なので、ジャンルが違えば違う数字が出てくるでしょうから、そのあたりは、どなたか、どこかで披瀝してくださることを期待しています。

 また、わたしがこの数字で満足しているかどうかも別の話です。ただ、毎回、あらかじめ条件を確認し、納得して仕事はしているつもりです。

 

(1)印税率(定価×印税率×刷り部数(or実売部数)=印税額)

 4%〜8% (児童書の絵本・図版本は4%、児童書の読み物は5〜7%、一般書は7〜8%)

 出版社によっては、ページ数が多いと印税率が1%高くなる場合や、重版分については初版分より1〜2%高くなる場合がありますが、8%を超えたことはありません。

 ただし、これはあくまでわたしの経験値であって、業界の基準や平均ではなく、最低値や最高値でもありません。以下同様。

 

(2)初版刷り部数

 例外もありますが、3000部から5000部というところ。

   文庫本は8000部から10000部でしたが、今は減る傾向にあると思います。

    重版がかかった本は、今のところ、38冊中12冊。読書感想文などの課題図書に指定される恩恵も少し受けています。児童書は長く売ろうする出版社が多いので、印税率は一般書よりやや低いかもしれませんが、トータルの印税額ではもしかしたら遜色ないかもしれません。もちろん、こればっかりは何部売れるかで変わってしまうので、比較のしようがありませんが。

 

    上記(1)(2)の条件で、一年に何冊本を出せるか、出した本が何部売れるか(刷られるか)によって年間の印税収入が決まるわけです。それで食べられればいいのですが、そう簡単には行きません。じゃあどうするかは、人それぞれということになります。別途、十分な収入がある人は、翻訳のための時間さえ確保できればよいのです。十分でなくてもがんばる、という手もあります。

 

(3)支払い条件

 初版は刷った分を全額、翌月または翌々月に支払い、というパターンがほとんどです。

 重版分は、刷った分を全額という場合と、毎年実売部数を計算して支払われる場合とがあります。

 

(4)契約書の有無

 10社中8社が契約書あり、2社が契約書なし。

 ただし、契約書がない場合は信用できない、とかそういうことではありません。契約書があるということは、条項によってお互いを縛ることになりますから、不利な条件をあとで変更することができなくなってしまう恐れもあります。これはお互い様ですけどね……。また、昨今は、コンプライアンスのために契約書を交わさなければならないと考える出版社も多く、あらかじめ準備された内容の契約書で一律に契約を交わそうとしますから、必ずしも個別の案件にそぐわない内容になっている場合もあると思います。

 契約書がなくても、印税率、支払い条件、予定の初版部数と定価を、メール等で確認して仕事を始めていれば、その他の条件はあとで必要に応じてフレキシブルに相談することができる、とも言えます。たとえば、文庫化の時の印税率はどうなるか、とか、電子書籍化された時はどうなるか、とかですね。契約書を交わす場合でも、こうしたことは、そうした二次利用が実際に行なわれないと、実態(もらえる金額)がよくわからないので、わたしは関連条項を削除してもらうことにしています。たとえば、今までに何度か、電子書籍の印税率の数字を「別途協議」という形に書き換えてもらったことがあります。

    今のところ、出版社と支払いでもめたことはありません。話し合いをしたことはありますが。

 

 出版社さんも、現状ではぎりぎりの線でやっているのだと思いますが、翻訳者もぎりぎり(以下?)でやっているのは変わりません。でも少なくとも、いくらもらえるのかわからずに仕事をしてはいけません。そんな人がいるのかと思っていたら、聞けなかった、という人に何人か会ったことがあり、驚きました。

     仕事を受ける時に、とりあえず「印税率、支払い条件、予定の初版部数と定価」を確認するようにしたいものです。出版社にとってはいつものことですが、会社によって条件がちがうのですから、翻訳者側は、初めての出版社から訳書を出す場合は、その都度確認する必要があります。

 もう、そんなにおいしい話はないのはわかっています。だから条件が悪い時は、断わるか、承知の上で引き受け、引き受けたら全力で翻訳する、という姿勢でとりくみたいものです。仕事ですからね。

 しかも、とてもやりがいのある仕事ですから。

(M.H.)