12月8日に、翻訳家の小鷹信光さんが亡くなられました。
この写真は、わたしがもっている小鷹さんの著書『翻訳という仕事』です。奥付を見ると、1991年の初版。わたしが前の会社をやめて、翻訳の勉強をはじめたのが1989年ですから、じつにタイムリーに出た本でした。タイトルがいい。"Translation As A Profession" という英語のタイトルもついてます。当時は、この本でしか得られない情報がたくさんありました。とくに、第三章の「職業としての翻訳業」という60ページ余りの章は、まさに仕事としての翻訳のあり方を示してくれています。
印税の意味なども含めて、出版社に対して翻訳者というのはどういう立場の人間なのか、あるいは、読者に対して翻訳者はどういう責任があるのか、ということをこれほど端的に記している書物は、今もないかもしれません。ひと言でいえば、翻訳者の「プライドと責任」が示されているのです。
じつは、ジャンルのちがいもあって、わたしは小鷹さんの訳文にほとんどふれていません。洋書の森のセミナーを聴講に行くチャンスもあったのですが、残念ながら逃してしまいました。今思うと残念でなりません。
小鷹さんがこの本を出された時は、すでに翻訳出版は商売としては下り坂に入ろうとしていました。今は、ますます状況は厳しくなっています。専業での文芸翻訳は非常にむずかしいのが実情です。それでも、「プライドと責任」は忘れずに仕事に取り組んでいきたいものです。
ご冥福をお祈りいたします。
(M.H.)