月曜日の古典児童文学を読む会のテーマ本は、『くまのパディントン』(マイケル・ボイド作、松岡享子訳、福音館)でした。
会場である絵本カフェ「イングリッシュ・ブルーベル」(Ehon Cafe - English Bluebell -)の店主Kさんが、筋金入りのパディントンファンということもあり、大いに盛り上がりました。なにしろKさんは、パディントン駅へ行き、パディントンが最初に見つけられたとおぼしき構内の一隅の写真をとり、ブラウン一家の家があるウィンザー・ガーデン32番地まで行ってきたというのですから!
そして、挿絵はもちろん、上の書影のペギー・フォートナムの手になるものでなければなりません(と、Kさん、きっぱり)。
こいつはぎりぎり許せるが、
ほかの挿絵はパディントンじゃない!
まして、映画になったばかりのこいつは許せない。
当然、映画は見てない、のだそうです。
ま、たしかにセンドバーナードっぽい。
わたしはといえば、パディントン、初めて読みました。うーん、おもしろい!
どうして、クマが一人(一匹とは言いづらい)で駅にいるのか? なぜ、ブラウン一家はクマを(珍しいペルーのクマですが、熊にかわりはない)家につれてかえるのか? しかも、ペットではなくて、家族の一員として迎えるのか? まわりの人も、やることなすことハチャメチャな、でも礼儀正しいパディントンを、一人のクマとして(おかしな表現ですがそう言いたくなる)認めるのか?? おもしろーい。
パディントンのやらかすことは、読者の子どもたちはきっと、わくわく、どきどきしながら追っていくんでしょうね。パディントンは決していたずらをしてるわけじゃないんです。好奇心から、まっすぐな気持ちで、あるいは義憤から、よかれと思ってやったことが、必ず騒動を起こすのです。
でも、ブラウン一家の人たちはやさしい。自分の子どもじゃないから、しつけようとしない!! だって、お客さんなんだから。きっと読者の子どもたちも、好奇心から悪気なくやったことで何度も叱られながら育つと思うのですが、パディントンは叱られない。子どもは思うよね、「ぼくだって、悪気はなかったんだ」って!
でも、この作品、そう単純じゃない。イギリスらしいユーモアやナンセンスがたっぷり。たとえば、『おさるのジョージ』みたいなストレートな描き方とは、またひと味ちがう気がしました。
原作者のボイドさん、よく子どもを観察して、パディントンの行動に生かしてます。どうやら、戦争中の学童疎開の子どもたちの姿にヒントをもらったらしいです。パディントンが、いつもスーツケースをはなさないのはそういうわけなんでしょう。
そうそう、翻訳について、びっくりするような話を知りました。松岡享子さんの訳はもちろんすばらしい。上品な雰囲気とユーモラスなタッチが絶妙な訳文です。そして、シリーズの8巻目からの共訳者、田中琢治さんは、以下のような人なのです(福音館のホームページより抜粋)。びっくりです。こんなことってあるんですねえ。
どうやら、なかなか続編が翻訳されないので、「はやく訳してください」と催促したらしい。そこから文通が始まるのもいい話だけれど、共訳者にまでなるのはすごいの一言。
田中琢治(たなか たくじ)
1962年、大阪に生まれた。7歳のクリスマスに両親からもらった『くまのパディントン』に夢中になり、訳者に手紙を書く。それをきっかけとした長年の交流を経て、シリーズ8巻目より共訳者になる。京都大学農芸化学科卒。農学博士。カナダに移住し、現在サスカチュワン大学で助教授として教育、研究に携わる。ペプチドに関連する酵素の研究が専門。
とても楽しい読書会でした。マーマレードのきらいなKさんですが、パディントンの大好物なので、メンバーの方からもらった橙入りの手作りマーマレードと手作りパン、ココアをいただきました。
ごちそうさまでした。
(M.H.)