翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

カズオ・イシグロ、ノーベル賞受賞!

 いい知らせです。どうも日本のマスコミは、「日本生まれの……」とか、「川端、大江に続く……」とか言いたくなるようですが、彼の素晴らしい作品を、土屋政雄さんという素晴らしい翻訳家の文章で、たくさんの日本人が読んでくれるだろうということが何より喜ばしい。

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(『日の名残り』の原作、"The Remains of the Day"。)

『日の名残り』は大好きな作品です。原作の力ももちろん大きいけれど、土屋さんの翻訳がほんとうに素晴らしい。主人公の執事スティーヴンスの語りを、ですます調で翻訳した文章は、最初から日本語で書かれているのではないかと思われるような流麗さ。皮肉っぽいけれど、暖かく、憎めないスティーヴンスの語りのタッチに、読者は否応なく物語の世界に引きこまれてしまいます。

 といいながら、いつものことで、話の筋はあんまりよく憶えていないのですが、とにかく傑作です(なんといういい加減な……)。わたしはこの訳文にあこがれて、いつか自分もですます調で翻訳したりと思ったくらい。今のところ、『二つの旅の終わりに』と『真夜中の電話 ウェストール短編集』の中の一編で、ですます調で訳す夢がかないました。

 ですます調は、うまくやると流れに乗って運ばれていくような、心地よいリズム感のある文章にできるのです。またやりたいなあ。だれか、ですます調で訳してほしい作品、紹介してください。

 

 ノーベル賞といえば、平和賞が「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)に贈られることになりました。こういう活動は、国際政治の実態から遊離している、という見方もあるけれど、やっぱり必要だし、理念に賞を贈る、みたいなところが平和賞にはあって、ノーベル賞のいいところだと思います。

 日本はもっとちゃんとしないと。

 

(M.H.)