翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『キャパとゲルダ ふたりの戦場カメラマン』見本出来!

 以前予告しましたが、改めて9月25日発売予定の拙訳新刊をご紹介します。

 戦争報道写真の草分けであるロバート・キャパと、彼が写真家として世に出る姿を傍らで見守り、また、自身も戦場カメラマンとして活躍した女性写真家ゲルダ・タローの交流を描いたノンフィクションです。

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 今日、見本が届きました。来週25日から配本開始。装画は、以前のエントリーで触れた『平場の月』の田雑芳一さん。うーん、いい感じ。装幀は、城所潤さん、大谷浩介さん。巻末資料や写真キャプション、ゲラチェックは小宮由紀さんです。

 

 じつはこの本、カバーをはずすと、またぐっとくるんです。ほら、カメラマンの話だけに……。

 

 キャパについては説明の必要もないでしょう。最初にわたしが彼に接したのは、自伝『ちょっとピンぼけ』。その後、すぐにリチャード・ウェランのキャパの伝記を英語で読みました(邦訳は沢木耕太郎さん訳)。いずれも1988年。読書記録をつけていたのでわかりました。ちょうど会社をやめて翻訳をやろうとしていた時で、わたしは31歳でした。自由奔放なキャパの生涯にすごく刺激を受けたことを覚えています。

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 ユダヤ人であることや、当時、ナチス勢力が拡大していたことが偶然の力として働き、ハンガリーからドイツ、そしてパリへと移りすんだアンドレ・フリードマン(のちのロバート・キャパ)は、同じユダヤ人で、やはりドイツからパリへ移っていたゲルタ・ポホリレ(のちのゲルダ・タロー)と運命的な出会いをします。

 


 最近になって、ゲルダ・タローについての研究が進み、伝記もいくつか邦訳されています。行方不明になった二人の撮影したネガフィルムがメキシコで発見されたりもしています。いわゆる、「メキシカン・スーツケース」。タローはスペイン内戦で、キャパはベトナムで命を落としてから、すでに半世紀以上経つというのに、二人の短い生涯のもつ魅力は今も多くの人を引きつけています。

 そんな中、アメリカ人で、主にノンフィクションを夫婦で書いている、マーク・アロンソンとマリナ・ブドーズの書いた "Eyes of the World" というタイトルの二人の伝記が出版されることを知って、本になる前からなんとか翻訳できないかと動いて翻訳させてもらえました。とてもうれしい。足掛け3年かな。

 キャパもゲルダも(キャパは姓で、ゲルダは名なのですが、インパクトの強さから、タイトルもキャパとゲルダにしています)、それぞれの伝記はすでに定評のあるものもいくつかあります。

 しかし本書の特徴は、二人の接していた時間に焦点をあてていること。今回、年表を作っていて驚いたのですが、二人ともとても若かった。ゲルダに至っては、写真家として活動したのは、いや、パリでキャパと出会ってからスペインで亡くなるまで、わずか3年足らず。しかし、その3年のなんと濃密だったことか!

 そして、ヤングアダルト作品として、若い二人が母国を離れた外国で出会い、どうやって自分の人生を作っていったか、また社会や政治と関わろうとしていたのか、そのために、どれほど自由に積極的に動いたかを描いています。彼らの境遇がそうさせた部分も大きいのですが、読んでいるこちらが勇気をもらうことはまちがいありません。日本の多くの若い人たちに読んでほしい。

                                                                                                                                                                                                                                           

 写真もたくさん収録されていますし、ヤングアダルト向けとはいえ、扱われた部分については作者たちはいっさい手を抜くことなく、参考資料などもしっかりと明示された、非常に質の高いノンフィクションになっています。わかりにくいスペイン内戦については、とても丁寧に解説されています。

 とくに読んでもらいたいのは、作者二人が自分たちをキャパとゲルダに重ねて書いた、「この本を書くに至った経緯」と「共同作業について」。とてもいい文章で、何度読んでも胸が熱くなります。ノンフィクションでありながら、作者たちの思いが詰まった、そして、それを若い読者に向けてまとめ、ぶつけた好著です。

 大判のグラビアだった原書から、日本語版はふつうの単行本のサイズになって、読み物として手にとりやすくなりました。訳文も、キャパとゲルダ、そして作者たちの熱が伝わる文章を心がけたつもりです。

 

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 9月25日発売。ぜひ!!

 

(M.H.)