翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『くろは おうさま』

 クラウドファンディングで購入した『くろは おうさま』が届きました。

 美しい!! だけじゃない、のがすごい。

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 点字絵本です。点字と、それから、絵も盛り上がった印刷で触ってわかる(のかどうか、わたしにはわかりませんが)ようになっている。宇野和美さんの翻訳も美しい!

 

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 これは「ちゃいろ」のページ。「くさーい」が見えますが、各ページ、においの描写もあって、言葉と、言葉が喚起する空気感や音やにおい、点字と絵の触覚があいまって、ほぼ真っ黒な絵本なのに、ページをめくるごとに五感が豊かに刺激されます。

 ふだん見慣れた絵本は、「絵」を見てしまうので(あたりまえですが)、その分、意識しないと、自分の想像力の一部が休んでしまうのだと気付かされました。本来、視覚情報からさらにいろいろ想像力を働かせることができるはずなのですが、そこで止まっていたなあ、と。

 

 点字一覧もついています。目の不自由な方は、これを触って読むのか。うーむ、ほとんど区別できないぞ。そう言えば、自分の訳書も何冊か点字化されているはずだ。点字化にあたっては印税は発生せず、連絡がくるだけ。

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 点字化されたという連絡を何度かもらった記憶があるので、日本点字図書館のサイトで検索してみたら……。以下の訳書が点字化されていました。

『エベレスト・ファイル──シェルパたちの山』
『弟の戦争』
『月曜日は赤』
『ハーレムの闘う本屋』
『秘密のマシン、アクイラ』
『二つの旅の終わりに』

 うーん、『二つの旅の終わりに』を点字にするとは、すごいぞ。あれ、小さな活字で500ページ以上あるんだから。『ハーレムの闘う本屋』は絵や写真もたくさん入ってるんだが、あれはどうなってるんだろう。テキストだけなのかなあ。『月曜日は赤』、あれは共感覚の本だから、目の見えない人が読むと、たぶん見える人より豊かな読書になるかもしれない……。などと、いろいろ考えました。

 

 

『くろは おうさま』には、こういうテキストの点字シートがついています。こっちの方が点字の凹凸がはっきりしています。それでもやっぱり、指先で区別するのはむずかしい……。

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 あ、宇野さんの翻訳はイメージがふくらんですばらしいです。きいろのページが好きかな。

「きいろわ からし。ぴりりとからいけど、ひよこの はねみたいに ふわふわ。」

 

 

 いろんなことを考えた「読書」でした。

 

(M.H.)