翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

「無言館」戦没画学生慰霊美術館

 長野県上田市にある、戦没画学生慰霊美術館「無言館」(むごんかん)を再訪しました。

 十字形のコンクリート製建物の中に、第二次世界大戦で戦死した画学生や元画学生の作品を集めた美術館です。コロナ禍で来館者がへり、維持が大変という話も聞いていたのですが、とりあえず開館していてよかった。

 前回もそうでしたが、今回も、戦死した若者たちや遺族の無念の思いが、胸にひしひしと迫ってきました。彼らが美大生のときに、あるいは、戦地に赴いてからも描いていた遺品となった絵画や彫刻は、「物」として目の前に存在するがゆえに、彼らの芸術への意志や戦争の愚かさが、それこそ「無言」のまま、確実に見る者に伝わってきます。

 彼らの絵を見ていると、画学生だけでなく、戦死した人、シベリアで病死した人、日本で空襲を受けて亡くなった人、すべての人がもっていたはずの将来の夢や希望のことを考えずにはいられませんでした。

 

 左の書籍のカバー写真では、まだ周囲の木が育っていなくて、十字形の建物がよく見えています。この美術館の館主である窪島誠一郎さんは作家、美術評論家で、水上勉さんの息子さんです。上の写真の『「無言館」ものがたり』は、第46回産経児童出版文化賞のJR賞を受賞されています。

 この本は子どもむけに描かれた、「無言館」の設立経緯や、ここに収められた画学生たちの事情を記したものです。この中で、窪島さんはこう書いています。

 ……私たちが暮らしている現在の日本の「平和」は、そうした「戦争」のおそろしさと隣りあわせのところにあるとさえいってもいいのです。

 私は全国の戦没画学生のご遺族をたずねることによって、だんだんそうした「戦争」のほんとうのおそろしさがわかってくるような気がしました。

 それどころか、画学生さんたちの絵は、今の私たちに、

「戦争はキミたちのすぐそばにあるんだよ! ゆだんしていると明日にでも戦争がおこって、ぼくたちのように戦場にゆかなければならなくなるんだよ!」

 と必死に教えてくれているような気がしました。

『「無言館」ものがたり』(窪島誠一郎著、講談社、1998年)』

 

 この印象的なモニュメントの周囲に、白い砂利が敷いてあるのですが、看板が立っています。立ち入り禁止の理由を書いた看板でした。

 辺野古の埋め立て土砂に遺骨が混じっているという話を思い出さずにはいられませんでした。

 

 

 入場券とともにわたされた紙片。

 

 無言館のホームページはこちらです。【 https://mugonkan.jp/ 】

 昨日は、バイクだったので、東部湯の丸インターチェンジで降りて行きました。その後、美ヶ原へ行きましたが、その話は次回。紅葉が美しくなってきました。みなさんも、信州へお出かけの際は、ぜひ足を伸ばしてほしい美術館です。

 

(M.H.)