翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

LGBT差別禁止法案をめぐって

 差別を禁止すると分断を助長する、みたいなことを言った自民党議員がいますが、わけがわかりません。人種や民族、国籍、性別、性的志向、性自認や障がいなど、自分で選んだわけではない属性にもとづく差別を、マイノリティだからという理由で放っておけ、というのですから。もしかしたら、性自認は選択するものだと考えているのかもしれませんが、そうではない。自分の中にあるものだし、気づくものです。

 人間も動物なので、同種の者でコミュニティを形成し、それを守ろうとする本能はあるでしょう。しかし、一方で、本能を理性でコントロールできるようになったからこそ人間なのではないですか? たしかに、性自認や性的志向についての知識や理解は、比較的新しく広まってきたものです。しかし、G7の中で日本だけが同性婚を認めていないことを考えても、おくれていると言わざるをえません。そもそも、議員本人が理解しようと努めたのかどうか疑わしい。

 一部の自民党議員たちの発言は、力をもつ者が力のない者を排除しようとするいじめ加害者と同じです。差別を放置しておいて、差別をしている人たちが理解するのを待ちましょう、なんてことが許されるわけはありません。そんなことをすれば、差別する人を新たに生み、差別されている人の苦しみが長引くだけです。

 人はみな、なんらかの点でマイノリティです。わたしたちが海外へ行けば、すぐに自分がマイノリティの立場になります。なぜ、当事者への想像力が働かないのでしょうか。また、国内では、人口減少に伴い、この先、ますます外国籍の人たちの助けが必要な社会になり、そんな時にこういう態度で政治を動かしてもらっては困るのです。すでに、外国人労働者を研修という名のものとに低賃金で働かせるという状態が起きています。もしも、出生率がこのまま下がりつづければ、外国籍の人たち、あるいは日本に帰化した人たち、あるいは、そういう人たちとのあいだに生まれた人たちの力を借りないと、この国は回らなくなることは目に見えているし、もう、それは始まっていると言ってもいい。

 

 ニュージーランド議会で、2013年に成立した同性婚を認める法案に反対したニック・スミス議員が、2021年に引退する際、息子がゲイであることを議会で語り、法案に反対したことを謝罪しました。LGBTQの人口に占める統計的な割合から言っても、20人〜10人に一人はいるはずで、それが自分であったり、自分の家族や友人であったりするのは、ごくふつうのことです。今まで知られていなかっただけ。

『兄の名は、ジェシカ』(ジョン・ボイン作、拙訳、あすなろ書房)は、主人公の男の子が、自分の兄が、体は男だけれど、心は女なのだ、と家族に告白する物語。LGBTQのT(トランスジェンダー)をテーマにした作品です。

 原作者のジョン・ボインはアイルランド人で、ゲイです。LGBTQのGですね。その彼も、トランスジェンダーのことはよくわからず、当事者である友人に話を聞き、理解を深めながらこの作品を書いたそうです。そういう意味で、「理解増進」は大事なのですけれど、差別禁止法案に反対している国会議員たち自身が、理解増進に努めているようには見えません。

 

 早くしろ、と言いたい。

 

(M.H.)