翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

「製本と編集者」vol.1、vol.2

「製本と編集者」という雑誌、というのか、ムック、というのか、とにかくそういう本があって、十七時退勤社というところから出ています。2022年の11月にvol.1が出て、昨年、2023年の11月にvol.2が出ました。

 毎号、編集者の方三人に入念なインタビューを行なった記事がまとめられています。「はじめに」に書いてあるところによると、十七時退勤社は、出版社の営業をしている橋本亮二さんと、製本会社に勤めている笠井瑠美子さんが本を出す時の個人レーベルなんだそうです。

 どうしてこの本を知ったのか忘れてしまいましたが、100ページほどの誌面に編集者さんのインタビューと、その三人が書籍を解体する(!)レポートと、製本会社の工場内の写真が収められています。(この白黒の写真がまたいいんです。)

 とても読みでがあって、おもしろい。

 

 こちらが、vol.1に登場する編集者さんのお名前。

 

 こちらがvol.2です。

 

 vol.1はずいぶん前に読んでいて、去年の暮れにvol.2が出たことを知って購入したら、インタビュー記事に登場する岩波書店の三輪侑紀子さんが、直接お世話になっている編集者さんだったので驚きましたし、興味深く拝読しました。『コピーボーイ』、『クロスオーバー』、そして今とりかかっている本もそうです。

 

 インタビューはそれぞれ、その人の生い立ちや学生時代のこと、どうして編集者という道に入ったのか、どの出版社でどんな本を出してきたのか、それはどういう経緯があって、なにを考えていたのか、といったようなことがかなりくわしくまとめられています。そう、ノウハウ本などではなく、編集者という人物のインタビュー集なのです。

 翻訳という仕事をしていると、あちこちの出版社の編集者さんとやりとりするわけですが、本作りという作業を通じて、テキストの読みやどんな本にするかについては時間もかけて、時にはかなり深いやりとりをするのですが、じつは、それ以外の話はそう多くは聞いたり、話したりしていないので、面識のある編集者さんのインタビューを読んで、へー、そうだったんだ、ということの連続でした。

 翻訳という仕事は、もちろん出版社から依頼された形でやるわけですが、じつは担当の編集者がちがえば、同じ出版社でもかなりちがったやりとりが発生するわけで、それは個人と個人が自分の解釈や表現方法について意見を交わすのですから、当然のことで、この仕事のおもしろいところでもあります。

 でも、その編集者さんのことをどこまで知っているかというと、そんなに個人的な話をたくさん交わすわけでもないし(いや、そういう関係を築ける場合もあるとは思いますが)、この本を読んで、ああ、もっとお互いのことを知っていたほうがいいのかもしれないなあ、と思いました。もちろん、個人的なことを知らなくても仕事は進められるのですが、なんというか、バックグラウンドや人柄や、とくにどんな本を作ってきたのかを知っていることで、ちょっとしたやりとりをする上で安心材料になったり、発想の源がわかったりして、良い仕事につながるかもしれないと思ったしだいです。

 翻訳者は名前が出ているので、ネットで検索すれば訳書はわかりますが、編集者はそこまで調べられない。仕事をする前に、編集してきた本のリストをもらえるといいなあ、なんて思いました。そもそも、編集者はそういうリストをこしらえているんだろうか。

 

(M.H.)