翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『銃声のやんだ朝に』& 藤沢でのイベントご案内

 書影は、2006年に徳間書店から拙訳で出た本です。

 第一次大戦中、1914年のクリスマスの朝に、戦線をはさんで対峙していたイギリス軍とドイツ軍の兵士たちが、一時休戦をしてサッカーをした、というエピソードをもとに書かれた作品。

 左は原書。かなり印象がちがいますが、まあ、こういうことはよくあります。原題は "When the Guns Fall Silent"、「砲火静まる時」とでもいうんでしょうか。

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 この本、残念ながら、先日、絶版のお知らせが来てしまいました。

 じつは、今月2月23日(日)の、藤沢市総合市民図書館での講演でとりあげる十冊ほどの訳書のうち、トップバッターで紹介する予定の本です。書店では買えなくなっても、あちこちの図書館には入っていると思いますから、ぜひ、読んでみてください。

   なぜ、トップバッターかというと、とりあげる予定の、戦争をテーマにした作品五冊のうち、第一次世界大戦当時が舞台のこの本が、時系列的に一番だからです。あとは、スペイン内戦、第二次大戦、湾岸戦争、とならべる予定。

 サッカー観戦が好きなわたしとしては、やっとサッカーが描かれている本が訳せるぞ、と思い、とてもうれしかった本です。でも、内容はそんなに浮かれた物語ではなく、サッカーシーンもありますが、意気揚々と出陣していった若者たちが戦線でばたばたと倒れていく悲惨な場面も描かれています。第一次大戦は、職業軍人だけでなく、一般市民が兵士として最前線に送られた初めてといっていい大規模な近代戦争でした。戦車や航空機が本格的に戦線に投入され、大きな人的被害が出た戦争でもあります。

 

 作者のジェイムズ・リオーダンさんは、ソ連で共産圏のスポーツを研究した方でもあり、その方面の著書もあります。残念ながら、すでに亡くなられているのですが、じつは、この作品の舞台となった、イギリス南部の町ポーツマスの出身で、子どものころから地元のサッカーチーム、ポーツマスFCの大ファンでした。しかも、みずからプレーもしていて、ソ連に滞在当時、スパルターク・モスクワというソ連の強豪プロチーム(共産圏だったので、正確には少しちがうと思いますが)で選手として出場した記録をもっているのです。

 ポーツマスFCといえば、日本代表だった川口能活選手が一時在籍したチームで、リオーダンさんとメールのやりとりをした時、「Yoshi(能活選手のこと)の件ではすまなかった。日本人GKを冷遇したチームに代わって謝りたい」と書いてよこしたのをよく覚えています。そう、苦労したんですよ、川口選手は。あの体格で、日本で初めて海外移籍したキーパーだったのですが、なかなか試合に出場できず……。昨シーズンで能活選手、現役引退しました。ご苦労様です。

 

 とまあ、こんな話ばかりしている時間はないと思いますが、とりあげる本については、少しは作者のことや、翻訳の裏話、関連する話題も話してみたいと思っています。

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(M.H.)