先日、拙訳『兄の名は、ジェシカ』や『ヒトラーと暮らした少年』の原作者、アイルランドの作家ジョン・ボインさんが、「作家として長くやっていくための10の秘訣」をツイッターに書いていました。
これ、「作家」を「翻訳者」に読みかえると面白いと思ってとっておいたのですが、ざっとご紹介します。
(ジョン・ボインは子どもの本だけではなく、一般向けの小説も書いています。いつか紹介できるといいのですが。)
だいたい、こんな感じ。
(1)あなたの本を売ってくれる人すべてに感謝すること。書店や出版社の人たち、エージェント、書評を書いてくれるブロガー、イベントのボランティア、メディアの人たち。彼らはあなたと同じくらい本を愛しているし、そういう人がいてくれてあなたは幸運なのです。
(2)ほかの作家の成功は、あなたとは無関係。あなたがおもしろくないと思うのに、ベストセラーになる本はいつだってある。あなたにその本は書けないかもしれないが、その本の作者にあなたの本は書けない。
(3)頼まれたからといって、いたずらに本の宣伝をするな。互いの作品を宣伝しあう風潮にくみしてはならない。読者には見抜かれる。賞賛は、心の底からいいと思える本のためにとっておけ。たとえそれがベストセラーであっても、デビュー作であっても。
(4)作家は作品が出版されてなんぼ。評価された長編小説一冊、短編集一冊で何年かやっていけるかもしれないが、次の本、そのまた次の本を出そうとしていなければ、ほかの人たちが望んでも得られない大きなチャンスを無駄にしていることになる。
(5)できるだけ幅広い読書をせよ。同じジャンルの作家の本、ジャンルの異なる本、正統派の文学、大衆小説、推理小説、新人のデビュー作……。もしあなたが男性なら、女性作家の作品を読め。外国文学、あなたと異なる人種の作家の作品、そして翻訳作品。
(6)文学祭に参加する時は、(常識の範囲内で)頼まれることはなんでもせよ。交通費、宿泊費、宣伝費などにお金がかかっていて、そのおかげであなたの読者が増えていくのだから。プロらしく仕事をこなせば、また次の年も招かれる。
(7)他の作家を公の場で批判せず、するなら直にせよ。道徳的にすぐれていることをことさら言いたてる必要はない。言うべきことのある作家はだれでも、面倒なことに巻きこまれるおそれがある。
(8)作品のことを真剣に考えろ。自分自身のことはそこそこに。ノーベル賞でももらったのでないかぎり、あなたはこの星の上で読者を求めている数多くの作家の一人にすぎない。二百年後にもまだ作品が読まれているかどうかはだれにもわからない。
(9)ソーシャルメディアは災いのもとだが、読者と作家を結びつけてくれるものでもある。批判や攻撃、怒りや不満のはけ口に利用する者もいるだろう。関わるな。乱暴な書き込みはブロックしろ。280字であなたの1日を台無しにするな。
(10)書くことはトレーニングのようなもの。毎日少しずつやらないと、仕事は先へ進まないし、頭が離れていってしまう。でも時には言葉が浮かんでこないこともあるので、そういう時はソファに寝そべって、映画を見たり、チョコレートを食べればいい。ただ、それを二日続けてやるな。
まあ、こんなにかっこいいものではないけれど、翻訳者にもかなり当てはまるのではないでしょうか。
ジョン・ボイン氏は、今年で小説を発表しはじめて20年、短編は27年になるそうです。
『縞模様のパジャマの少年』(千葉茂樹さん訳、岩波書店)の映画化もあり、一躍世界的に有名になりましたが、この作品はもちろん、児童書はどれも着眼点が鋭く、構成やアイデア、そして、リズムや展開の速さで読ませる作家のように思います。一般向けの長編は少しちがっているようですが、まだちゃんと読んでいません。
上に書影を出した "The Heart's Invisible Furies" はアイルランドの現代史に、自身の体験も重ねた作品のようで、出だししか読めていませんが、そのうち、ちゃんと読みたい。彼は自国アイルランドを舞台にした作品を書いてこなかったのですが、幼い頃のつらい体験があり、なかなかそれを作品に昇華できなかったのがその理由だそうです。ナチス時代のドイツや、ほかのテーマをあつかってきたのですが、この作品でようやく正面からむきあって書いた、とどこかで言ってました。
作家を追っていくのはおもしろいし、翻訳者の務めでもあると思うのですが、なかなか追いきれません……。
(M.H.)