翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

日本学術会議の任命拒否問題について

 これはそもそも、よく理解できない部分があって、いろいろ読んだり見たりしていたのですが、今日の野党の合同ヒアリングで、声明を発表した映画監督のお一人、森達也さんと野党代表者とのやりとりを見て、だまっていてはいけないと感じました。

 下のYouTubeのリンクからヒアリングの様子が見られますが、冒頭の森監督の話だけでも聞く価値があると思います。その後の学術会議の事務局へのヒアリングは、見ればわかりますが、まあひどいものです。昨日の内閣府や法制局も、聞かれたことにまったく答えていませんでした。

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https://www.youtube.com/watch?v=65fLUVvNYSw

 

 森監督は、戦前の日本の様子や、ハリウッドの赤狩りの話などを出しながら、とてもわかりやすくその思いを話しています。

 学術的な専門知を代表する人たちが、それなりの選考過程を経て選んだメンバーに、理由もあかさず、任命を拒むのはやはり暴挙です。文句があるなら選挙で政権を変えればいいのだ、というような乱暴な議論をする人も一部にいますが、そんなことをしていたら、学術会議の意見が時の政府よりにかたより、科学的に誤った政策にお墨付きを与える結果になる恐れがあります。たとえ政権が変わっても、最新の科学的知見にもとづく提言がなされなければならないし、常に時の政権はそれを尊重した上で政策決定をしてほしいものです。

 

 一部で、学術会議からの答申がここ何年もなされていない、仕事をしていないという話が出ましたが、「答申」は政府からの「諮問」への回答であり、これは専門家の意見をきくことを怠ってきた現政権の怠慢の結果でしょう。一方で、会議側からの提言は数多くなされていることが学術会議のHPからも明らかです。

 専門家からの多様な意見を受けても、その意見に添わない政策判断を、時の政権はできるわけで、その際には、例えば科学的な知見に逆らっても、短期的な政治的・経済的理由で今はこうする、と明確にすればいいだけのこと。意見具申をしてもらう組織の人事をいじるというのは、イエスマンからの意見を科学的裏付けとして利用することにつながる危険があることは、誰か見てもあきらかです。

 そもそも、自公政権の教育政策、予算配分には首をかしげることが多く、このままでは、将来の日本の学術的な力は衰えるばかりだと感じざるをえません。いや、すでに衰えはじめているのではないでしょうか。目先の利害や、地元への利益誘導をなくすためにも、幅広い意見をくみとるための学術会議であってほしいと思います。

 

 また、出版文化の端にいる自分としては、愛知トリエンナーレの問題や、教科書検定の問題など、芸術の各分野へのさまざまな偏った介入が懸念される現状が悪化しないことを願っています。そのためにも、今回の問題では、任命拒否の撤回をまずは求めたいと思います。

 

(M.H.)