翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

翻訳勉強会(6−5)

 月曜日は今年最初の勉強会でした。課題は『ライラエル』(ガース・二クス作)。なかなか難しい課題になりましたが、これでおしまい。次回からは絵本を扱います。

 さて、この日、話題にしたことのひとつが「擬音語」でした。

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 日本語ではいわゆる擬音語で表現するところを、英語では、擬音語の役目も担っている他の言葉で表現されていることがあります。たとえば、下の引用の下線部などがそうです。

   "Yes," said Lirael.  On an impulse, she bent down and hugged the Dog around the neck, feeling both warm dog and the soft buzz of the Charter marks in the Dog's collar through the thin material of her shirt.

   The Disreputable Dog bore this patiently for a minute, then made a sort of wheezing sound and shuffled her paws.  Lirael understood this from her time with the visiting dogs, and let go.  ("Lirael" by Garth Nix, Harper Collins, 2001, p.106)

 soft buzz は、「静かな振動」とか「唸るような小さな音」、wheezing sound は、「苦しそうな息の音」や「あえぎ声」、shffuled her paws は「爪で床をひっかいた」とか「足をバタつかせた」などというように、説明的に訳すことも可能ですが、buzz, wheeze, shuffle といった名詞や動詞が、もともと擬音語(の要素をもっている語)と考え、日本語ではそのような処理をすることも可能です。(あ、「バタつかせた」は擬音語入り動詞と言えますね。)

 たとえば、こんな感じ。

「そうね」ライラエルは、思わず腰をかがめ、犬の首に腕を回して抱きついた。薄いシャツの生地を通して、温かい犬の体温と、首輪にこめられたチャーター・マークのたてる、ブーンというかすかな音が伝わってくる。 

 不評の犬はしばらくじっと抱かれていたが、そのうち、ハッハッと荒い息をし、足をバタバタ動かし始めた。ライラエルは外からやってくる犬の相手をした経験から、どうしてほしいのか悟り、犬の体を放してやった。(『ライラエル』(拙訳、主婦の友社、2003年、p.148)

  擬音語をうまく使うと、場面がくっきりとして、親近感や臨場感も出ますから、過度にならない程度にうまく使いたいものです。

 

 また、最初から英語でも擬音語が用いられていることがありますが、そういう時は、今度は、それにあたる日本語の擬音語を探ることになります。

 cock-a-doo・dle-doo を「コケコッコー」、bow・wow を「ワンワン」などですね。先日訳していた作品の中では、clump, clump 「ドタドタ」「ズシンズシン」、plip, plop 「ポタン、ピチャン」といった音が出てきました。

 でも、中には、辞書に載っていないようなものもあって、どこまで一般的なのかわからないこともあります。辞書に出てこず、ネットで調べてほとんどヒットしなければ、作者の感じた音をアルファベットで表現したオリジナルなのでしょう。そうなると、音を忠実に表現した、日本語としては耳慣れない擬音語にするか、あるいは、すでにある擬音語の中から、妥当なものを選ぶことになるのでしょう。

 ただ、音の聞こえ方というのは人によって異なるもので、なかなか、作者の聞こえ方が、読者の耳にうまく響くかどうかは保証の限りではありません。あんまり突飛な擬音語を考えて使ってしまうと、悪目立ちしてしまうこともあると思います。でも、うまく「発明」すれば、その作品を代表するキャッチワードになり、そのうち国語辞典に載るかもしれません。

 

 発明しようかな。

 

(M.H.)