先日の読書会の課題本が、アーシュラ・K・ル=グウィンの『影との戦い』だったので、ル=グウィンの物語作法の本を購入し、あちこち拾い読みしていますが、翻訳に通じるところがたくさんあって、おもしろい。
第1章は、1. the sound of your writing というタイトルで、音の話。翻訳でも、何度も自分の訳文を読み直せ、と言いますが、この章の始まりは、
"The sound of the language is where it all begins. The test of a sentence is, Does it sound right? The basic elements of language are physical ... "
となっています。
"Most children enjoy the sound of language for its own sake.
とも。("Steering the Craft”、p.1, (c)1998 by Ursula K. Le Guin)
そうそう、この、言葉は音という物理的な要素でできている、という感じはよくわかります。付け加えると、日本語の場合は、漢字やかなというさまざまな形をした文字でもできていると言えそうです。
この本、訳書も出ていますが、物語の作法について英語で書かれたものを、日本語で読んでもしかたないだろうと思って原書を買ったのですが、例文の部分を除いては、日本語訳でも要諦は伝わるだろうな、と感じました。
とりあえず、もうひとつうなずいたところは、第3章、3. sentence length and complex syntax 。てっきり、短い文は善、みたいなことが書いてあるのかと思ったら、逆でした。むしろ、そういう風潮を戒めています。
"Teachers trying to get kids to write understandably, textbooks of style with their notion of "transparent" style, journalists with their weird rules and superstitions, and bang-pow thriller writers ── they've all helped fill a lot of heads with the notion that the only good sentence is a short sentence.
A convicted crimminal might agree. I don't." (同 p.23)
短い「センテンス」(「刑期」の意味もある)がいい、という意見には、有罪判決を受けた犯罪者は同意するかもしれいが、わたしはしない、と。なかなか辛辣です。
そして、人は長い文章を書けなくなっているだけでなく、読めなくなっている、と嘆いています。子どもの本は、もともと長い文が少ないのでさして困らないのですが、ちょっと昔の名作と言われるものを読むと、確かに文が長くて、うーむ、となることも少なくありません。
ま、とりあえず、日本語の文章で考えると、短かければいいというものではない、というのは心強いお言葉です。とくに、英語と日本語の構造の違いがあるので、英語では短い文の連続を、日本語ではつなげたほうがいい場合や、また、その逆の場合もある。どっちがいいというのではない。
引用されている文豪の名作は、ちょっと読みづらいこともありますが、ル=グウィン自身の文章はとても明快ですし、単語もやさしい。ユーモアもあって、拾い読みできるので、半端な時間でこれからもぱらぱらとめくってみます。
(M.H.)