翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

コラム「再」再録「原田勝の部屋」 第12回 戦争を知らない子どもたち

★8月になると、この記事を自分でも読み返したくなります。イラクもISからの解放が見えてきましたが、今度は、その後が、また大変でしょう。記事の中で、わたしが訳した戦争をあつかった児童文学を挙げていますが、このあとも、『フェリックスとゼルダ』、『フェリックスとゼルダ その後』を訳しましたし、今年の秋にもまた、そして、来年も、戦争がテーマの訳書を出す予定です。「忘れてはいけない」と思います。(2017年08月03日「再」再録)★

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 この記事は、2008年の終戦記念日に寄せて書きました。

 この記事を書いたあと、どれくらいたっていたか忘れましたが、イラクで人質になって解放された経験をおもちの高遠菜穂子さんの講演を聴きにいきました。講演で見せていただいたスライド映像には、米軍の空爆で傷ついた民間の人々や、劣化ウラン弾の後遺症に苦しむ人たちが写っていました。それは悲惨な映像で、出席者はみな言葉を失っていました。高遠さんは、今もイラク支援の活動を続けていらっしゃいます。

世界の子どもの本から「核と戦争」がみえる―教科書に書かれなかった戦争〈Part28〉

世界の子どもの本から「核と戦争」がみえる―教科書に書かれなかった戦争〈Part28〉

 

  1980年にイラン・イラク戦争が始まってから、すでに35年以上経ち、その間ずっと、イラクは国のどこかで戦闘が続いています。今もIS(イスラム国)に苦しめられていて、あの国に暮らしている人々、とくに子どもたちのことを思うと、胸が塞がれます。

 戦争を扱った児童文学を翻訳する意義は大きいと、ずっと思っています。また戦争の話か、と思うかもしれませんが、必要なことなのです。大人は「またか」と思いますが、子どもたちは知らないのですから。そして、その子どもたちが大人になっていくのですから。

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コラム「再」再録「原田勝の部屋」 第9回 翻訳の際の心がけ ── その4

★「自分の日本語」という表現は、傲慢な気もしますが、でも、自分の翻訳した本はすべて自分の言葉で成り立っているのだと思うことは、とても大切だと思うのです。(2017年08月02日「再」再録)★

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レトリック感覚 (講談社学術文庫)』と『レトリック認識 (講談社学術文庫)』 参考になりますよ。

 

 だれでも、自分の言葉、というものをもっています。それまで積み上げてきた言語体験や学習成果によって、人は自分らしい言葉の使い方や文章の展開の方法を知らずに身につけています。それは、どんな年齢の、どんな生い立ちの人にもあるはずです。

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コラム「再」再録「原田勝の部屋」 第8回 翻訳の際の心がけ ── その3

★この回に挙げた、「声に出して読め」と「見直すほど良くなる」という心がけ二つは、やる気さえあればだれでにもできる訳文向上術だと思います。あとは、どれだけしつこくやるか。天才でない翻訳者は、しつこくやるしかないのです。(2017年08月01日「再」再録)★

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 この1月に、訳書『ウェストール短編集 真夜中の電話』の朗読会を銀座の教文館ナルニア国でやりました。自分の翻訳した作品の一部を人前で読んだのです。今回の「心がけ」には、「声に出して訳文を読め」がありますが、朗読会は、まさにそれを地で行く機会でした。

 真夜中の電話 (児童書)

 いやあ、これはかなり緊張、というか、疲労しましたね。そもそも、声を出しつづけることは肉体的な活動なので、実際に体力を消耗したのだと思います。

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コラム「再」再録「原田勝の部屋」 第7回 翻訳の際の心がけ ── その2

★日本人は生真面目なので、翻訳においても、原書の構造や語彙をできるだけ生かそうとするのだと思いますが、できた日本語の文章が意味不明では困るわけで……。おそらく、この「(3)訳者は日本語に寄り添え」というのが、一番できそうでできないことのような気がします。★

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 写真は『実例英文法』(第4版[改訂版]、オックスフォード大学出版局)の一部です。この中に、「こと」が4つもあります。動名詞の項なので、「〜すること」と訳すのは定番ですが、よく見ると、三つめ、四つめの「こと」は動名詞の訳ではありません。

 え? なんの話かですって? それは、以下のコラム再録をお読みください。

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コラム「再」再録「原田勝の部屋」 第6回 翻訳の際の心がけ ── その1

★さて、今日は第6回を再アップします。こういう面倒くさいことを常時考えているわけではありませんが、一度考えておくと、迷った時、決めておいた方針が無意識のうちに助けてくれるような気がしています。(2017年7月30日、「再」再録)★

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 第6回〜第9回は、「翻訳の際の心がけ」と題して、いつも気に留めておくべきことをいくつか、スローガン的にあげてみました。ほんとうは、細かいことの集積が翻訳だと思いますが、こういうふうにまとめておくことで、ずいぶん助かるものです。

 

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  この絵は、今回、例としてとりあげた『わたしの知らない母』の章扉のイラストで、近藤達弥さんの作品。この小説の雰囲気をよく表わしています。

 では、どうぞ。

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コラム「再」再録「原田勝の部屋」 第3回 「見取り図」が描けるか?

★見取り図は今もできるだけ書くようにしていますが、原文ではつじつまが合わないことはやはりちょくちょくあって困ります。この回では偉そうに色々書いていますが、編集者さんや校正者さんに指摘されて初めて気づくことが多いのは今も変わりません。読者によっては、あまり位置関係を頭に中に再現していないという方もいらっしゃると思いますが、それでもつじつまが合っていることが無意識の部分で働いて、ここぞという時にイメージが立ち上がってくれることを願っています。(2017年7月28日、「再」再録)★

 

 この三枚の「見取り図」は、ちょっと興が乗ったので、ワープロのドローイング機能で描いたもの。いつもは手描きでちょこちょこやってます。

 手前は『二つの旅の終わりに』に出てくる、アムステルダムの倉庫を改装したフラットの平面図。うしろの二枚は『スカイブレイカー』の飛行船ハイペリオン号の断面図と、『エアボーン』の無人島の地図です。

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 では、どうぞ。

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コラム「再」再録「原田勝の部屋」 第2回 「もちこみ」のこと

★最近のもちこみ成功例は、『ペーパーボーイ』(ヴィンス・ヴォーター作、岩波書店、2016年)、『ハーレムの闘う本屋』(ヴォーンダ・ミショー・ネルソン作、あすなろ書房、2015年)、『フランケンシュタイン家の双子』(ケネス・オッペル作、東京創元社2013年)などです。あ、来年もひとつ出る予定。もちこみ企画は、一から十まで自分が関わった実感があって、とてもやりがいがあります。じつは、昨日ももちこんできました。うまく行くといいのですが……。(2017年7月27日、「再」再録)★

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「もちこみ」は、「持ち込み」です。

 子どもの本の翻訳をしていると、漢字を使わずひらがなで書く(俗に「ひらく」と言いますが)ことが多く、もともと「持」と「込」という字がきらいだということもあり、わたしはたいてい「もちこみ」とひらがなで表記します。おかげで、何人かの読者から、「もこみち」と読んでしまった、と言われました。スミマセン。

Tomorrow〈stage1〉―明日、戦争が始まったら

Tomorrow〈stage1〉―明日、戦争が始まったら

 

 

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コラム「再」再録 「原田勝の部屋」 第1回 翻訳のジャンル

★なかなかブログが更新できず、ついに禁断のコラム「再」再録をしようと思います。まあ、自分で読み返す意味もありますし、Facebook開始以降の読者の皆さんの中には、お読みいただいていない方もいらっしゃるはず。というわけで、以下、翻訳について書いた昔の記事を掲載します。(2017年7月26日)★

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 今日から、この1月まで7年あまり、サン・フレアさんの情報サイトに書かせてもらっていたコラム、「原田勝の部屋」を、週に二回程度、再録していきます。このコラムは、主に文芸翻訳を勉強している方むけに書いたものです。

 第1回は、2007年7月2日にアップした記事、「翻訳のジャンル」です。わたしは、児童書やヤングアダルト文学の翻訳を手がけていますが、なぜ、このジャンルに落ち着いたのか、という話ですね。では、どうぞ。

   

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『オオカミを森へ』(仮題)

 先週から校正に入っている作品です。キャサリン・ランデル作の "Wolf Wilder"、邦題は『オオカミを森へ』になる予定。版元、小峰書店のHPにも出ましたので、わたしも紹介しておきます。9月発売予定。

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 原書の表紙、どうです、いいでしょう? 左から、イギリス版ハードカバー、同ペーパーバック、アメリカ版です。イギリス版では、表紙だけでなく、挿絵もたくさん入っていて、これがすばらしい! 日本語版は、この真ん中の表紙で、挿絵も入りますよお。イラストレーターはフィリピンの Gelrev Ongbico さん。

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