翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『二つの旅の終わりに』

 Twitterをチェックしていたら、訳書の『二つの旅の終わりに』を面だしで並べてくださっている書店の写真がありました。ありがとうございます。そういえば、三辺律子さんが、4月17日の高知新聞で、この本を紹介してくださり、その記事を送っていただいていました。

 ということで、たまには、前に訳した本の紹介もしておこうか、と。

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二つの旅の終わりに』(エイダン・チェンバーズ作、徳間書店、2003年)
 表紙イラストは松尾たいこさん。大好きな表紙です。

 主人公のジェイコブは17歳のイギリス人の少年。アムステルダムにオランダ人の祖母を訪ね、同名の祖父ジェイコブの話を聞くと同時に、自身、オランダ人の若者たちとの交流を通じてさまざまなことを感じる物語です。祖母が語る第二次世界大戦中の話と、ジェイコブが体験する現代のアムステルダムの話が交互の章立てで描かれ、日本語版で500ページを超える大作で、自分さがし、戦争、安楽死、恋愛の形、など、さまざまなテーマを盛りこみながらも、ぐいぐい読めるヤングアダルト小説です。

 もう15年近くも前に訳したのかと思うと感慨を覚えます。よく、こんな長い作品を訳したものですが、でも、訳している最中もとてもおもしろかった。祖母が一人称で語る第二次大戦中の回想はですます調で、若いジェイコブの視線で現代のアムステルダムでの行動を追う章は三人称のである調で、という、語りを章ごとに変えるのも面白くてしかたありませんでした。

 現代のアムステルダムを描く章では、トン、という、ゲイの少年が登場し、いわゆるLGBTの人物が登場する作品としては先駆的であり、そういう意味でも意義のある小説です。

 こちらは、三辺さん(ありがとうございます!)が紹介してくださった高知新聞の記事の一部(記事は冒頭以外消してあります)。イラストは田中海帆さんですが、これもいいですね。表紙絵もこのイラストもオレンジ色のノートをもっていますが、もちろん、オレンジはオランダを象徴する色です。

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 原作者のエイダン・チェンバーズさんは、この作品でカーネギー賞を、2002年にその活動に対して国際アンデルセン賞を受賞されています。2003年に来日された時にはお会いすることができ、下のサインをいただきました。知的でユーモアあふれる方でしたが、イングランド人なのにサッカーはお嫌いのようで、話を振ったら、"Yobbish!"(チンピラっぽい)と一蹴されたことを覚えています(泣)。知識人はそうなのかもしれませんね。

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 あ、とにかく、ほらほら、この本もあるでしょう。全国各書店で展開されている「はじめての海外文学」の棚もよろしく!

(M.H.)