翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『コピーボーイ』装画

 原作者のヴィンス・ヴォーターさんが、ご自身のブログで、日本版『コピーボーイ』の装画を絶賛されています。訳者としても、とてもうれしい。

 ヴォーターさんのブログはこちら ↓

http://www.vincevawter.com/11/four-reasons-i-like-the-japanese-cover-for-copyboy/

 

 左が『コピーボーイ』、右が前作の『ペーパーボーイ』。

 

 ヴォーターさんがおっしゃる、この装画を見てうれしく思った4つのポイントを、以下に要約しておきますね。

その1

 作中で印象的に描かれている、ニューオーリンズのミシシッピ・リバー・ブリッジが、表紙上部にかすかに見えること。広大なミシシッピ川をやっとまたいで立っている橋の姿と、描かれている位置が絶妙。

 

その2

 助手席のタイプライター。作中でも重要な小道具であり、また、わたしが十代の頃に使っていた、さまざまな記憶を呼びさます品でもある。ロイヤル社製のタイプライターは、わたしの多くの旅に同行し、一度も紙をはさまなかった旅もあるが、常にかたわらにあるお守りのような存在だった。

 

その3

 こんな細かいことは覚えていない人が多いかもしれないが、わたしの記憶のツボにはまったのが、わたしがもっていた古いオープンカー、オースティン・ヒーリー・スプライトについていた小さなバックミラー。このミラーがついている位置が完璧。そして、このミラーはまったく使い物にならなかった。イギリスで売られているものはフェンダーについているのに、アメリカの運輸省は、ここにつけろと言ったそうだ。うしろが見えないことは確かめていなかったのだろう。

 

その4

 少年が見ている地図が、この装画の重要な要素。第7章から引用してみる。

「地図を読むのは、ぼくが好きなことのひとつだ。自分の体が実際に地球という惑星上のどこかにあり、しかも、指で押さえることのできる紙の地図の一点にあることを知るという考えが好きなのだ。地図はフィクション、自分の体はノンフィクションだと、ぼくは思う。スピロさんはぼくに、真実はしばしば、ノンフィクションよりフィクションの中に多く見出されるもので、それはちょうど、写真より、すぐれた絵画の中に多くの真実が見出されるのと同じだと言っていた。この説を考えれば考えるほど、スピロさんは正しかったように思う。」(『コピーボーイ』p.70、拙訳、岩波書店)

 

 その4に引用してくださったこの箇所は、わたしも訳していてなるほどなあ、と思ったところ。地図は実際の土地そのものじゃないけれど、景色を見てもわからないが、地図上で見えてくることはたくさんあります。それをこんなふうに感じて書けるヴォーターさんの感性はすばらしい。

 

 

 そして、この装画を描いてくださった丹地陽子さん、今の日本の出版界の装画の第一人者、超売れっ子と言っていい方ですが、いくつものお仕事を抱える中で、ゲラを読みこみ、資料にあたり、原作者をうならせる絵を描かれていることが、改めて今回のことで実感しました。すぐに丹地さんにメールしましたが、とても喜んでくださいました。

 お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、この車はイギリス製なので、うっかり資料を写すと、右ハンドルになっちゃったりするのですが、アメリカに輸出されたものなので左ハンドルなんですね。このライトブルーの車体色は、本文に記載がなく、丹地さんのセレクトです。ちょっと古い車によくある色なんですが、これがまた絶妙。

 

 ということで、2年半前に出版された本書が、なぜ今頃、原作者の手元に届いたのかは謎ですが(笑)、『コピーボーイ』、そして、その前作の『ペーパーボーイ』、まだの方はぜひ!

 

 あ、そもそも、このヴォーターさんのブログ記事に気づいたのは、ヴォーターさんの奥様のツイッターでした。ご夫婦どちらもフォローしてるはずなのに、なぜが奥様のツイートが目に止まり……。ありがとうございます!

 

(M.H.)