翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『彼岸の図書館──ぼくたちの「移住」のかたち』

 少し更新がとどこおっていたのは、ウクライナの戦争が終わらず、そこへもってきてガザの問題が起き、日本の政治はひどい状況で、そういうことについて書くのはしんどいからでした。とにかくどちらも早く休戦してほしいし、今の政権には早く退陣してもらいたい。

 

 本の話を。

 たまたまタイトルに惹かれて買った本、『彼岸の図書館──ぼくたちの「移住」のかたち』(青木真兵・海青子著、夕書房)が、面白かったので紹介。

 2019年に出版された本ですが、版を重ねているようです。わたしの買ったのは第3版。夕(せき)書房は高松夕佳さんがやっているひとり出版社です。

 著者の青木さんたちは、いろいろあって、東吉野村という奈良県の山村で、蔵書を公開している「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」をひらいています。それに至るまでのことを、「オムライスラヂオ」の再録を中心に語った本です。今の日本の問題や、生き方や、図書館の機能や、地方の可能性や、いろいろなことを考えさせる本です。

 読みだしてしばらくしておどろいたのが、次の一節でした。青木真兵さんと内田樹さんとの対談の一部です。

内田 その私設図書館の名前が「ルチャ・リブロ」ということだけど、ルチャって闘いでしょう? 闘う本屋。

青木 ぼくが好きなプロレスと本をかけ合わせました。メキシコのプロレスはルチャ・リブレ、スペイン語で本をリブロと言うのでピンときて(笑)。でも一応『ハーレムの闘う本屋──ルイス・ミショーの生涯』という本をイメージしています。アメリカ公民権運動時代、知識をつけることと闘うことは一緒のことだと、迫害を受けながらもハーレムで本屋をオープンした黒人男性の話です。

(『彼岸の図書館』p.24)

 これは、まだ青木さんたちの図書館ができる前、2015年9月の対談の一部です。このあと、青木さんたちは、ほかの仕事もしながら、東吉野に移住して、自分たちの蔵書を自宅で図書館として解放する形で、ひとつの知の拠点を作って今に至ります。くわしくは、この本を読んでほしい。

 とにかく、わたしが見つけてきて翻訳した「闘う本屋」のドキュメンタリーが、こういう形で読者にとどいていることがうれしくて、紹介させてもらいました。「闘う本屋」という言葉はわたしが思いついて邦訳タイトルにしたものなので、よけいに。

 

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 また、この本を発行している茨城にある夕(せき)書房の高松夕佳さんは、『絵本作家のアトリエ』(福音館書店、全3巻)を作った編集者さんたちの一人でもあり、こちらも縁があるなあ、と思いました。『チャンス』を訳す際は、原作者のウリ・シュルヴィッツのことなどを調べるのにお世話になった本です。

 

 いろいろつながっていることは励みになります。

 

(M.H.)