翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

読書会 ──『ほんとうの空色』

 昨日の川越での読書会の課題本は、ハンガリーのバラージュ・ベーラ作、『ほんとうの空色』でした。

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 初読でしたが、とてもおもしろかった。

 

 『ほんとうの空色』は、主人公の少年フェルコーが特別な青い花から作った絵の具を塗ると、そこに空が見える、というアイデアを軸にエピソードを連ねていく作品です。その絵の具で塗った部分、箱の蓋だったり、先生の帽子の中だったり、家の壁だったりするわけですが、そこには青空が映り、それが星空になり、時には雷雨まで降ってくる、という不思議な絵の具なのです。

 まあ、このアイデアがすばらしいので、粗いところもあると思うのですが、喚起されるイメージがとても印象的で、読者が本の外側に想像力を広げることができるタイプの物語になっています。そう、もしかしたら物語には、ストーリーに乗っていく作品もあれば、描かれていないところへ深く入っていったり、自分の内面をえぐっていくような作品もあると思うのですが、『ほんとうの空色』は、心が本の外にむかう作品だと感じました。

 ちょっと観念的なところもあるので、子どものころに読んでいたらどう感じたかは、また別ですが、きっと好きになる子がいると思います。

 

 この日のスイーツ。右は、会場のイングリッシュブルーベルのKさんが、作品に合わせて作ってくれたハンガリーのお菓子、「ベイグリ」。本来はクリスマスの時に食べるものらしいです。左はメンバーの方がもってきてくださった、五月だけに兜と藤のお干菓子。どちらもおいしかった。

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  作者のバラージュ(1884-1949、ハンガリー語では日本語と同じように、姓名の順で表記するので、バラージュが姓です。)は映画、演劇、文学と多才な人でしたが、時代に翻弄された人でもあったようです。バラージュは、ドイツにいる時に、リーフェンシュタールを主演に『青の光』という映画を作っているそうですが、偶然、今、訳している作品には、リーフェンシュタールが主人公の少年とからむ場面があって、おっ、と思いました。

 

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 昨日はバイクで行きました。

 ミラーが、ほら、ちょっと「ほんとうの空色」っぽい……。

 

(M.H.)