翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『あのころはフリードリヒがいた』

 川越の絵本カフェ、イングリッシュブルーベルさんでの「海外古典児童書を読む会」、今日の課題本は『あのころはフリードリヒがいた』。ハンス・ペーター・リヒター作、翻訳は昨年亡くなられた上田真而子さん、岩波少年文庫です。1961年の作品。いわゆる、ナチスドイツ・ユダヤもの、ですが、細かい描写と時代を超えた普遍性が際立つ傑作です。

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 主人公で語り役の「ぼく」が生まれた1925年から、1942年、ユダヤ人への弾圧が厳しくなり、悲劇で終わる最終章まで、見出しに年代が入り、細かな描写で、ぼくとユダヤ人のフリードリヒ一家の、時代とともに変わっていく暮らしぶりが丁寧に、でもテンポよく描かれていきます。二人の主人公の子どもらしさもありつつ、ユダヤ教のことや、戦争の影が濃くなり、変わっていくドイツ社会と人々の心が手にとるようにわかります。フリードリヒの両親、ぼくの両親、先生や近所の人たちなど、大人の変化もしっかりと、過不足なく描かれています。

 みなさんの評価も高く、そして、話の半分近くは、昨今の日本の政治状況や、ネット上の中傷など、現実の話題も多く出ました。この物語に描かれている大人たち、とくにぼくの両親は、家族の生活を守ろうとして、少しずつ変わっていく中で、それでも、フリードリヒの一家をかばおうとしていますが、それもやがて限界が来てしまいます。人間としてやってはいけないことなのに、自分の、家族の暮らしを守ろうとした時、その一線が崩れていく様はほんとうに怖い。

 また、教育の大切さも話題になりました。子どもたちに、くりかえしてはいけない過去の事例をしっかりと伝える本でもあります。

 

 

 

 今日のおやつは、第2章で、ぼくとフリードリヒも手伝って作る「じゃがいもパンケーキ」と紅茶。抑えた甘さが美味しゅうございました。

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(M.H.)