翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

翻訳勉強会にて(3)

 月曜日に翻訳勉強会の第6回、今年最後の会をやりました。

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  10月に始めた勉強会は、毎回、参加者の皆さんの熱心な予習・復習にもとづく、活発な意見交換が行なわれ、わたしにとっても有意義な時間になっています。

 ロバート・ウェストールの短編を題材にしているのですが、こうして意見を交わしながら解釈し、訳文を考えていると、改めてウェストールの作家としてのうまさがよくわかります。

 リズムのよい文章で、そして少ない言葉で、情景や音や心情を表わし、なにげない部分に意図があることがわかって面白い。自分で訳した作品なのに、一人で翻訳していた時にはそこまで思いが至らなかったようなことまで浮き彫りにされてきます。いや、訳していた時も考えていたとは思うのですが、参加者の皆さんとやりとりするおかげで、より鮮明になることがたくさんあります。

 

「段落の意図を読む」

 この日は、前回の復習があったとはいえ、2時間の会なのに、原書1ページしか進みませんでした。そのページの中には、長い段落が二つあったのですが、一つは盲目の主人公が、外を通りかかった若い男女のカップルのうち、少女の控えめな声から、まったく違うタイプの自分の奥さんとの若いころのやりとりを回想し、でも、その奥さんを愛していることがにじみ出る、という部分。もう一つの段落は、いかにも不良っぽい少年の声から、工場の社長をしていたころに見た、がらの悪い従業員たちの思い出を述懐する部分です。

 どちらも、妙に具体的で、かなりの情報量なのですが、あまり一語一語にこだわりすぎると、各段落の目的がぼやけてしまう、という話をしました。ストーリーを大きく展開するための段落ではなく、あくまで補助的な情報をあつかい、でも、主人公の性格がにじみでる、という段落です。そのあたりを念頭におきながら、テンポよく読める訳文にしたいものです。

 

 このページが当番だったYさん、そしてほかのみなさんも、大変ですが、次回、この日の話をふまえての直しを期待しています!

(M.H.)