翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『ウクライナ、わたしのことも思いだして』@「小説丸」

 『ウクライナ、わたしのことも思いだして』の紹介文を、小学館の小説ポータルサイト「小説丸」に書きました。以下のリンクから読んでみてください。

【 https://shosetsu-maru.com/yomimono/essay/ukrainerememberalsome 】

 

 ロシアがウクライナに侵攻し、本格的な戦争が始まったのが3年前の今日、2月24日でした。この本を訳しはじめた時には、日本で出版されるころには戦争が終わっていてほしい、と思いながら、一方でむずかしいだろうな、という思いもありました。

 裏でどのような交渉が進んでいるのか知りませんが、トランプ大統領の言っていることは、およそ大国の指導者とは思えず、発想がすべて企業人、ビジネスマンです。この本の冒頭、「本書によせて」の中で、イギリスのジャーナリスト、マックス・ヘイスティングズが、アメリカの支援の重要性や、共和党が軍事援助の打ち切りをめざしていることを危惧しているのですが、その通りになってしまいました。

 しかし、その時の国力や地政学的な位置によって、戦争の勝敗が決まってしまうのなら、小国のアイデンティティはなくなり、大国にのみこまれることは必至です。二度の大戦とソ連の崩壊を経て、それとは別の国際秩序が形成されつつあったはずなのですが、また、歴史の針がもどりかけています。

 一方で、すべての指導者が仲良く平和的な関係を結べるかと言われれば、それは夢物語である現在、緩衝国家としてのウクライナは、そして日本は、軍備と大国だのみでは国土や平和の維持がむずかしいのも事実です。ウクライナのNATO加盟が正しい道なのか、あるいは日本のアメリカ軍依存には限界があるのではないか、ということも考えなくてはならないでしょう。

 

 そうした国際関係論とは別に、ミサイルが落ちてくる下には人の暮らしがある、という事実は、常に忘れてはなりません。本書『ウクライナ わたしのことも思いだして:戦地からの証言』で、原作者のジョージ・バトラーが描き、聞いたままを文章にして伝えようとしているのは、そういうウクライナの人々の生活であり人生です。

 

 ぜひご一読を! そして、バトラーさんのイラストを味わってください!

 

(M.H.)