翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『希望の牧場』

『希望の牧場』(森絵都作、吉田尚令絵、岩崎書店)を読みました。

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  福島第一原発の放射能もれで、多くの農家が、飼っている牛たちの殺処分を余儀なくされた中、300頭をこえる牛を見放せず、今も帰還困難区域ぎりぎりの場所にある「希望の牧場・ふくしま」(吉沢牧場)で飼い続けている「牛飼い」、吉沢正巳さんのことを描いた絵本です。

 

 森絵都さんの文も、吉田尚令さんの絵も力強い。多くの人に読んでもらいたい、絵を見てもらいたいと思いました。

だれもいなくなった町の牧場に、オレはのこった。
そりゃ放射能はこわいけど、しょうがない。

だってオレ、牛飼いだからな。

エサ食って、クソたれて、
エサ食って、クソたれて──
まいにち、それだけだ。
ま、それが肉牛の仕事だもんな。

 森絵都さんが文章にした、牧場主の吉沢さんの一見愚直な言葉を読んでいると、からみあった複雑な現実についてあれこれ考えさせられます。人間は自然に対して一体なにをしてるんだろうか。原発事故の後の日本という国のこと。生きるということはどういうことなのか……。

 絵本ですから文章は簡潔、絵との組み合わせで、ズンと腹に残ります。文字の色や配置やフォントも絶妙。すべての言葉が力強い。引用したい文ばかりですが、控えておきます。ぜひ、読んでみてください。内容もさることながら、絵本の形だからこそ伝わってくるものがあります。絵本の力を改めて認識させられる作品です。

 

 福島県の立ち入り規制の案内地図を確認しました。広大な地域が今も帰還困難区域に指定されています。

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 これは12月26日現在の帰還困難区域と通行止めの地図ですが、右側の縦に走る緑の線が常磐自動車道。赤い区域を横切っているのがわかると思いますが(常磐道そのものは通行可能)、その北側の規制区域ぎりぎりのところに「希望の牧場・ふくしま」(吉沢牧場)があります。ちなみに、ところどころ二輪は通行不可の道路があって、じゃ、車は窓閉めてればOKなのか、窓開けられないのか、とか、そもそも、常磐道は真ん中突っ切ってるのに、バイクも通れるのか、とか、いろいろ考えてしまいました。

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希望の牧場 (いのちのえほん23)

希望の牧場 (いのちのえほん23)

 

 2016年のIBBYオナー、イラストレーション部門の作品として世界にも紹介されます。

 売り上げの一部は、現在、多くのボランティアに支えられているこの牧場の運営資金に充てられます。

(M.H.)