翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『わたしの心のなか』

 わたしの心のなか (この地球を生きる子どもたち)

  なんとも印象的な表紙です。

『わたしの心のなか』(シャロン・M・ドレイパー作、横山和江訳、すずき出版)という児童書。訳者の横山さんが Twitter に、「増刷がかかった」とつぶやかれたので、思わずうれしくなってリツイートしました。

  そうしたら、お会いしたことのない横山さんからメッセージが来て、少しやりとりをしました。SNSの良さを感じるのはこういう時ですね。

 

 この作品は、原書も同じ写真を使った表紙で、ジャケ買いしたのですが、読んでみるととてもいい作品で、レジュメも書き、ある出版社にもちこんでいるうちに、横山さんの訳で出版されてしまいました。ちょっぴり悔しかったのですが、うれしくもありました。

 主人公のメロディは脳性麻痺の女の子です。そのメロディの心の声をつづった物語。生まれつきしゃべれず、歩けないメロディですが、記憶力がよく、とても賢い少女で、両親や理解のある人の助けで学校へも行き、クイズ大会へも出場します。電動車椅子や声の代わりになる音声装置などの果たす役目もよく描かれています。

 結末は決してハッピーエンドとは言えません。作中にも、メロディの日常生活の不自由な様子がしっかりと描かれています。障害者、とくに見た目で近寄りがたい印象をもたれる脳性麻痺の患者さんへの周囲の反応も、現実を踏まえて描かれていて、読んでいて苦い思いもします。振り返って自分はどうだろうと思わずにはいられません。誠実な作品です。

 

 原題は "Out of My Mind"。
 日本語タイトルは『わたしの心のなか』。
 表紙は金魚鉢から飛び出ていく金魚(作中でこういう場面があります)。

 

 絶妙の組み合わせですね。

 ぜひ、読んでみてください。

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(M.H.)