翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

"No!" の訳し方 ── 翻訳勉強会(5−2)

 月に二回の勉強会。今日のところは、何箇所か、どう訳すか、なかなか判断のむずかしい単語がありました。

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 日射しは少し春らしくなりましたが、会場にしている川越の絵本カフェ、「イングリッシュブルーベル」さん 【 Ehon Cafe - English Bluebell  】の壁面は、まだツタの緑だけ。5月にはこれが一面の白いバラの花でおおわれます。

 あ、W400 はバッテリーを替えたおかげで、押しがけの覚悟も不要、快調です。

 

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 今日は、いくつか「ねえ、ねえ、どう訳した?」という言葉がありました。

 まずは loose papers 。ノートを窓から放り投げたら、loose papers が中から出てきてひらひらと宙に舞います。「ページがはずれたんでしょ」「いや、はさんであった紙だよ」「papers は複数形だから、書類っぽい」「いやいや……」

 次のページに、loose pages とあったので、これは別ものとは思えません。やっぱりページがはずれたのかなあ、と。たぶん、紙がひらひら宙を舞うところが大事なんだとは思いますが、この作品、あいまいな部分もところどころあって苦労します。

 

 お次は、Slap. Slap. Slap. 放り出されたノートが地面に落ちる音。「パタリ」か、「ポトリ」か、「パタン」か、「ペタッ」か、「ペチャッ」か……。二階の窓から地面に落ちたノートの音はなにがいいんだろう? そんなことはしょっちゅうやることじゃないから、定番はない。じゃあ、音を再現すればいいかというと、妙にコミカルになるのも困ります。「パタン」くらいでしょうか? 三つ続けると「パタン。パタン。パタン」 ちょっと重い? うーん。「ペタッ」かなあ。こういうふうにいじくりまわしていると、どんどん混乱して、どれも奇妙な言葉に思えてきます。あ、どなたか、いい擬音があったら、教えてください。

 

 きわめつけは、"No!"  臆病だった男の子が、だんだん成長して、しっかりしてきて、横暴な父親に大切なものを燃やされて叫びます。「やめて!」「やめてくれ!」「だめーっ!」「なにすんだ!」「やめろ!」「やだーっ!」「くそ親父!」……etc. 

「くそ親父!」と訳した人はいませんでしたが、まあ、これもいろいろな考え方があります。幼い頃の気弱さはだいぶなくなっているので、強気で「やめろーっ!」もいいし、でも、大事なものなので、哀願調かもしれない。となると、「やめてーっ!」くらいか。どういう感情をこめたのかまでは原作に書いてなくて、「…… yelled, "No!" 」とあるだけです。

 

 そう、この作品、訳者の裁量でかなり印象のちがう作品になる可能性大。全体の流れで修正することも必要だし……。

 勉強会、わたしがいちばん勉強になっています。

 

 

 

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 勉強会とは無関係。

 夕食後のスイーツは、上板橋は石田屋さんの栗饅頭、バター饅頭、くるみ饅頭。

 おいしいーっ!

(M.H.)