翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

カチャ・ベーレン、『ぼくの中にある光』

 ベーレン作品の日本語版4冊目は、拙訳、岩波書店刊、『ぼくの中にある光』(原題 "The Light in Everything" )です。11月15日発売、とご案内してましたが、15日は発行日で、発売日は19日(火)らしいです。もうしわけない。発行と発売がちがうのは、なぜ、と思いますが、ときどき逆に発売日が先のこともある。

 

 早く読みたい方は、岩波のこちらのページから、冒頭十数ページが読めます。

 https://www.iwanami.co.jp/book/b653989.html

 カバー絵はシドニー・スミスさん。原書ハードカバーの表紙は、タイトルの箔押しが効いていますが、色合いや空がせまいことで、シリアスな内容を予想させます。日本語版は格段に明るくなって、希望が感じられるカバーになりました。よかった。左右反転しているのは、絵が背表紙から裏につながっているため、英日でページの送りがちがうのでこうなりました。

 訳者あとがきにも書きましたが、ベーレンさんは、発達障害のある子どもたちを研究したり、サポートしたりしてきたことから、その知識を土台にして、1作目の『ぼくたちは宇宙の中で』を書いたと思います。2作目の『わたしの名前はオクトーバー』では、もう少し物語性を高めて、やはり主人公の少女オクトーバーの思い通りにならない心の内を描きました。そして、その流れをくむ(とわたしは思っていますが)本作『ぼくの中にある光』では、二人主人公の一人称語りによって、『オクトーバー』で成功した文体や描き方、テーマを、より複層的に描くことに成功していると思います。

 いつもなにかに怒っているようなゾフィアと、暗い部屋では眠れない臆病なトム、まるで正反対の二人の11歳の主人公が、片親同士の交際によって、一緒に暮らすことになり……、というストーリー。ベーレンさんが巧みなのは、それぞれの主人公の心の声を交互に描きながら、二人がはっきりと自覚していなかった自分自身のことに気づくまでのプロセスを、周囲の人々や自然との関わりあいをからめて、少しずつ、とても説得力のある形で描いていることです。文体は、前2作を踏襲し、長いセンテンスに少ないコンマ、会話を地の文に埋めこんだ、特徴的なものです。日本語版ではその再現に限界がありますが、多少なりとも移したつもりです。どうぞ、文章のタッチも味わいながら読んでください。

 

 

 作品の中で、折りヅルが大切な要素として使われています。原書の見返しに載っているツルの折り方は、日本語版でも表紙に乗せています。原書のタイトルはシドニー・スミスさんの書き文字。

 

 また、章タイトルに使われている、Tom、Zofia の手描き文字もスミスさんのものですが、日本語版の「トム」「ゾフィア」の文字デザインは、訳文チェックも手伝ってもらった翻訳勉強会のメンバー、安達妙香さんのお仕事です。岩波の試し読みから見られますよ。スミスさんの字のニュアンスを残した、いい感じ。

 

 もう少し待ってくださいね。どうぞよろしく!!

 

(M.H.)