翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

停戦仲介の努力を。

 ウクライナでの戦争は膠着状態に入り、ますます人が死んでいく、どうにもやりきれない状況です。時間をみつけては、あれこれ読んだり、見たりしていますが、そう簡単に背景を理解することはできません。

 ただ、ゼレンスキー支持一辺倒でいいんだろうかという疑問はあって、こんなリスクまで犯して、なぜプーチンがウクライナに侵攻したのか、もう少し知りたいと思っています。

 

 4月2日の朝日新聞のインタビュー記事。東大を退官されたばかりの藤原帰一さんのお話は、全体をとらえるにはわかりやすい記事でした。現実は認めつつも、国際協調への希望を失わないというスタンスは、少しほっとする。

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 しかし、あまり、具体的な打開策には触れられていなくて、もやもやしていました。まあ、それほどむずかしい局面なのだと思います。

 

 早くから停戦交渉を進めろ、と発言していたのが、東京外大の大学院で平和構築学を教えている伊勢崎賢治さんですが、この本は、ずいぶん前に買って、ぱらぱら見ていた本ですが、また読み返しています。

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 福島県の高校生との対話集です。伊勢崎さんは、国連PKO幹部として、東ティモール、シェラレオネ、アフガニスタンで武装解除や停戦交渉をした経験があるので、たいへん説得力がある。今も東外大に世界中から学びに来た人たちにその知見を伝えています。

 アメリカやNATOのような善悪二元論では戦争が止まらず、犠牲者が増え続けることがわかります。伊勢崎さんはいま、あちこちで発言をしていて、うなずくことが多い。もちろん、ロシアの侵攻は悪いと言っている上での話ですが、前回のクリミヤ危機の処理や、その後のゼレンスキー政権のやり方もほめられたものではないようです。ルガンスクなどの独立承認も、ロシア語話者へのウクライナ政府の対応や、アゾフ連隊の所業、クリミア合意の順守不徹底など、ゼレンスキー側にも問題はありそう。

 

 下のYouTubeリンクは、れいわ新撰組の山本太郎氏と、伊勢崎さんの対話ですが、とてもわかりやすい。2月27日ですから、ロシアのウクライナ侵攻直後です。

www.youtube.com

 

 山本さんは、ほんとうによく勉強していて、れいわだけが国会のロシア非難決議に反対しましたが、その前提としては、この伊勢崎さんとの対話があったはずです。ほかの国会議員たちが、こうした専門的な知見や大局に立って国際関係を考え、非難決議に賛成したとはとうてい思えない。

 もちろん、ロシアの侵攻は許されないことです。ウクライナはロシア領に攻め込んでいるわけではないのですから。しかし、アメリカやNATOが全面的に正しいのかといえば、そんなことはなく、日本が別の役割を果たせなかったのか、あるいは、非難決議をすることで日本自身の安全保障にマイナスではないのか、などなど、いろいろ考えました。

 そもそも、ソ連崩壊によってワルシャワ条約機構が消滅したあと、NATOはなんのために存在するのか、というところや、緩衝国家としての東欧、北欧の国々は、NATOに加盟すべきだったのか、あるいはウクライナもふくめて、未加盟の国は加盟すべきなのか……。

 アメリカがアフガニスタン(結局、多大な犠牲を払ってアメリカは撤退)やイラク(大量破壊兵器はなかった)や、あちこちでしてきたことは、今回のロシアのウクライナ侵攻となにがちがうのか? 中東やアフリカ諸国と、ヨーロッパのウクライナとを別の目で見る視点が自分の中にあるのではないか、ということも強く感じました。

 

 引き続き、いろいろ考えたいと思いますが、備忘録として。

 

(M.H.)