翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

点字出版のこと

 昨日、社会福祉法人の日本ライトハウス点字情報技術センターからお手紙が来て、訳書『エベレスト・ファイル シェルパたちの山』(マット・ディキンソン作、小学館)が点字化された旨、連絡いただきました。

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(お手紙に貼られていたシールです。)

 著作権法によって、点字化した場合の印税は発生しないのですが、こうして連絡が来ます。たしか『二つの旅の終わりに』も、昔、点字化の連絡をいただいた記憶があります。

 

 いろいろ想像しました。

 目の不自由な方に、自分の訳した外国の文学を読んでいただけるのはとてもうれしいことです。欧米では、オーディオブックの製作が盛んなのですが、日本ではあまり普及していないので、読みたい本もなかなか読めないのだろう、と思います。

 指先で点字をたどりながら小説を読み進めていくのは、どんな気持ちなのでしょうか? 目の見える自分は、活字をたどりはするものの、時折、いいかげんに飛ばしたり、周囲のことが目に入って集中を切らせたりしますが、きっと読書への集中は目の見えない方のほうが高いのかもしれませんね。聴覚が鋭くなっているから、そうとも限らないのでしょうか。

 文字をたどり、視覚化する、という作業を、読書ではするわけですが、目の不自由な方は視覚化するのに苦労するのでしょうか? でも健常者だって、見たことのない外国の風景を文字から想像するわけで、その点では同じなのかもしれません。もしかしたら、ふだんからほかの感覚を研ぎ澄ませて周囲の状況を推測している目の不自由な皆さんのほうが、ずっと精密に物語を再現されているようにも思います。

 いくらでも好きな本を選べるわたしたちですが、もう少し丁寧に、集中した読書をしなければ、とも思いました。

 

『エベレスト・ファイル』、どんな人が点字をたどって読んでくれるのでしょうか。イギリス人の原作者が、ネパールにそびえる山々のことを描いた小説を、日本で点字で読んでくれる人がいる、そのことを考えただけでも、なんだか胸が熱くなります。点字化は大変な作業だと思います。ありがとうございます。

エベレスト・ファイル シェルパたちの山 (児童単行本)

 

(M.H.)