翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

ピーター・シス展、必見!!

 11月14日まで、練馬区立美術館で開催中の「ピーター・シスの闇と夢」、行ってきました! これ、少しでも興味がある方は、絶対に行くべきです。

 もう一度いいますが、少しでも興味がある方は、絶対に行くべきです

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 展示点数、なんと200点。原画もたくさん。チェコスロバキア時代のものからあって、彼のタッチやテーマの移り変わりがよくわかります。アニメーションもあります。とくにすごいのが原画の細密さ。

 自分が訳した絵本の原画が中心だった3階の展示には、もう手足が震えるほど感動しました。2時間いましたが、あと1時間くらいいたかった。

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 残念ながら、上の4冊のうち『夢見る人』の原画はありませんでしたが、あとの3冊の原画は合計20点。おどろいたのが、原画の大きさが、ほぼできあがりの大きさだということ。わずかに大きいのかな、とは思いますが……。ほかの絵本もだいたいそんな感じで、おおはばに縮小しているものはなさそうです。

 ということは、シスの、とくに伝記ものの絵本を見たことがある人はわかると思いますが、あの気の遠くなるような細密な点描や線の描き込みを、あの小ささで、延々と、タッチや色の乱れはまったく見せずにやりきっているのです。肉眼でやっているのか、それとも、拡大鏡を使っているのか……。かと思うと、大胆に一面に絵の具を塗って(でも、微妙なグラデーションをつけて)、ぽんとキャラクターを配置したりもしています。

 こういった少し重いテーマの絵本における彼のスタイルは唯一無二。絵本やポスターという媒体の制約があるからこそ生まれた芸術性というか、なんともいえないバランス感覚です。あとね、もしかしたら、東西冷戦下のチェコスロバキア育ちで、家族をおいてアメリカに亡命した彼の生い立ちに根ざした閉塞感や、暗さや、スラブ色や、へこたれない感じなどが影響しているのかもしれません。ほかに、とくによかったのは、『三つの金の鍵──魔法のプラハ』の原画、ニューヨーク・タイムズのブックレビューの挿絵かなあ。

 一方で、『バレリーナ……』、『モーツァルトくん……』など、アメリカでの家族との生活がもたらしてくれたと思われる明るいタッチの絵もあり、それもなんかよかった。というか、ほっとした。

 

neribun.or.jp

 

 

 シスの伝記絵本を翻訳しているときは、とにかく事実関係の確認と、ダーウィンやガリレオやサン・テグジュベリの引用原文のチェックが大変で、絵本なのに、かなり時間がかかったのをおぼえています。でも、シスはとても几帳面に調べていて、こういう本でありがちなミスはひとつも見つからなかったと記憶しています。

 しかし、くりかえしますが、あの小ささで、よく正確に描けるな……。

 

 行ってない人。ぜひ!

 

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(この写真は反転させてます。クジラはニューヨークの絵。)

 

 秋晴れの穏やかな一日でした。満足。

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(M.H.)